32 「シッタン河」渡河
いよいよ「シッタン」の渡河、聯隊長の担架は大きな筏となった。 聯隊副官の犬伏中尉、田中軍医中尉、乾軍曹、石川軍曹、田上上等兵 の五名装具衣類は筏の廻りに縛り付け、片手が筏に、片手で犬かきで 泳ぎ始めた。途中で筏が反対に向いてしまったが、辛うじて岸に着く 事が出来た。そこは最下流でこれから下流では敵の中に入ったかも 知れない。部隊も大変心配していたのでやれやれと思った。岸に 上がってみると、見渡す限りの泥沼が続いている。敵がいないだけで 全く状況は変わってない。担架に付く兵達も次々と倒れて、行く道の 両側には白骨化した骸、新しい屍、「シッタン」河西岸では見られない 光景が目に入ってくる、八月八日「ウエイギン」に到着した。 靴を無くして素足に「ボロ」布を巻いて歩いているものも多い。 靴が駄目になって落伍したものも数百人に上ると思う、「マダマ」河 を渡り東岸を「キャウキ」に向かって南下した。この頃敵の宣伝ビラ からソ連軍の参戦を知った。
シッタン河岸にて慰霊祭